「国際商事仲裁」とは何でしょうか。これは、国際的な企業間紛争を解決するための有効な手段として古くから国際取引社会で確立され、近時ますます注目を集めているシステムです。「仲裁」というからには、国家の裁判所以外の機関で紛争解決が目指されることになりますが、それはどのような仕組みでどのような特徴を有するものなのでしょうか。また、そうした仕組みや特徴は「国際」が付くことでどのように変化するのでしょうか。本演習の前半は、報告と討議を通じてこのシステムを理解することを目的とします。また、本演習の後半では、前半で得られた知識を前提に、チームごとに分かれて、いくつかの具体的なケースを前提に模擬「国際商事仲裁」を行います。以上を通じて、法的思考力、国際感覚、プレゼンテーション能力を磨くことが目指されます。意欲的な態度と毎回の出席は当然の前提です。
月曜7・8限、早川研究室(6号館1F)にて
教材:JCAジャーナル1995年5月号、7月号、9月号、11月号、12月号、96年2月号、4月号、6月号掲載の「仲裁文献紹介」
本演習のもう一つの中心は、電子メールの利用です。メンバー全員のアドレスに送付されるアドレスがあり、報告者は報告日の午前中までにレジュメを電子メールで送付し、他のメンバーが事前に閲覧してから集まれるようにしなければなりません。また、レポートもこのシステムを通じて全員に向けて提出され、全員から評価を受けることになります。
・自己紹介
・演習の進め方
・国際商事仲裁とは何か
・教科書の説明
第2回(4月22日) ー国際商事仲裁の概要ー
・概要紹介のビデオ
・概説と質疑
4月29日、5月6日は休日、5月13日は休講(国際私法学会:早川が報告者)
代わりにレポート「国際商事仲裁とは何か、一般の人にわかるように説明せよ」
E-mailで、Mailing List (arbitral@rikkyo.ac.jp) 宛に提出
第3回(5月20日) ー国際商事仲裁の利点は何か?ー
・JCAジャーナル95年5月号を手掛かりに報告、討議(菊池、綿森)
第4回(5月27日) ー仲裁適格性とは何か?ー
・JCAジャーナル95年7月号を手掛かりに報告、討議 (金子)
第5回(6月3日) ー国家間仲裁とは何か?ー
・JCAジャーナル95年9月号を手掛かりに報告、討議 (谷内、金子)
第6回(6月10日) ー仲裁契約とは何か?ー
・JCAジャーナル95年11月号を手掛かりに報告、討議(松本)
第7回(6月17日) ー仲裁人はどのように選定されるのか?ー
・JCAジャーナル95年12月号を手掛かりに報告、討議(菊池、湯田)
第8回(6月24日) ー仲裁手続はどのように進行するのか?ー
・JCAジャーナル96年2月号を手掛かりに報告、討議(徳永、綿森)
第9回(7月1日) ー仲裁ではどのような法に従い判断がなされるのか?ー
・JCAジャーナル96年4月号を手掛かりに報告、討議(松本、湯田)
第10回(7月8日) ー仲裁判断はどのように下され執行されるのか?ー
・JCAジャーナル96年6月号を手掛かりに報告、討議(谷内、徳永)
合宿(7/26-28)後、夏季休暇(合宿報告は Coming Soon!)
第11回(9月30日)ケースの簡単な分析、役割分担、今後の日程の確認
第12回(10月7日)ICC規則版ケース第1回手続
第13回(10月21日)ICC規則版ケース第2回手続
第15回(11月11日)ICC規則版ケース仲裁判断とその分析
第16回(11月18日)JCAA規則版ケース第1回手続
第17回(11月25日)JCAA規則版ケース第2回手続
第18回(12月2日)JCAA規則版ケース仲裁判断とその分析
第19回(12月9日)JCAA訪問(確定)
第20回(12月16日)模擬手続の総括
第21回(1月13日)全体の総括
第3回<国際商事仲裁の利点は何か>
1はじめに・・・仲裁と裁判の対比
2仲裁の利点と適用領域の拡大
・仲裁人の選択権が当事者にあること
・非公開
・短期間(ファーストトラック仲裁)
・費用
・仲裁地
・当事者に交渉の余地があること
・生産活動を中断しなくてよいこと
・有効性の保障(ニューヨーク条約)
・適用領域の拡大(金融・労使団体)
3検討・仲裁の欠点
・時間がかかる?
・費用がかかる?
・証拠調べの方法
・一審制
・法的判断がなされない可能性
・非公開
・先例拘束性・予見性が弱い
第4回<仲裁適格性とは何か>
仲裁ー当事者間の契約の中に仲裁合意がなければ成立しない。
(民事訴訟法786条:一人または数名の仲裁人をして争の判断を為さしむる合意は、当事者か係争物につき和解を為す権利ある場合に限り、その効力を有す。)
即ち、仲裁ができるのは当事者が和解で解決できるものにかぎられ、どのような問題も仲裁で解決できるわけではない。この紛争は、仲裁手続により決着をつけることが許される問題かどうか仲裁の利用を許すかということをその紛争の仲裁適格性(仲裁可能性)という。
適格外となるもの:
・公法上の問題
・国家が規制する規制法
・父子関係の存否についての争い
仮に適格外となったら、民事訴訟法786条により判断は取り消さうべきものであり、執行判決は与えられない。
アメリカにおいて、以下の領域に仲裁適確性が拡大していった。
1、独占禁止法(反トラスト法)
2、証券法、証券取引法
3、RICO法
4、特許法
5、懲罰的損害賠償
これらの領域にどのように仲裁適確性が拡大していったのか?そのきっかけとなった事件を例に説明していこうと思う。
1、三菱、ソーラー事件(反トラスト法の問題)& この事件以前の判決の傾向。(消極説、積極説)、三菱ソーラー事件以降の判決の傾向
2、ロドリゲッツ事件(証券法、証券取法の問題)
3、マクマホン事件(RICO法(犯罪組織の浸透、腐敗組織規制法)の問題)
4、特許法について
5、マストロノブオ事件
第5回<国家間仲裁とは>
一、概略
1、歴史的伝統:国境の確定、相手国民の請求権処理
2、特徴 :法に基ずいて判断。当時国が判断権者を選べる。
3、近時の例 :イラン、米国請求権法廷
・ソ連、東欧諸国の崩壊にともなう紛争
・国際課税
・NAFTAの国家間紛争解決手続
・WTOの国家間紛争手続
二、国家間仲裁の経済紛争への適用領域の拡大
1、国際課税に関する問題(二重課税)
・なぜ二重課税が起こるのか
・租税条約による排除
・ICSID(投資紛争解決国際センター)の設置
2、NAFTAの国家間紛争手続
・19、20章の紛争処理手続
3、WTOの国家間紛争解決手続
第6回<仲裁契約とは何か>
初めにー仲裁契約と仲裁条項
・書面によるの意味
その1ー仲裁契約の意義
◎国家の裁判所の管轄権の排除
◎合意は拘束する
その2ー仲裁契約の中味
◎仲裁契約に載せるべきこと
◎仲裁契約に盛り込むことが望ましいこと
*合同仲裁協定、友誼仲裁、lex mertoria
その3ー仲裁契約の不存在とcompetence/competenceの法理
◎有効無効の判断の時期
◎有効か無効か不明のとき
その4ーseparabilityについて
その5ー仲裁契約の準拠法
◎リングリングサーカス事件
◎法例7条と「手続は法廷地法による」の原則
第7回<仲裁手続(1)仲裁手続準拠法・仲裁地・仲裁人>
(一)仲裁地
通常、『仲裁地は○○とする』というように仲裁条項のなかに定められている。
だが、仲裁地の概念は明白に定められていないため、争点となる。
『仲裁地は仲裁法や条約の適用の有無を決する基準』
cf.ニューヨーク条約1条1項
仲裁地とは?
(1)法的意味
仲裁判断がなされた地。当事者が契約によっって決定。仲裁地が選択されることにより、仲裁が行われる国の仲裁法が適用。
(2)物理的意味
審問、証拠調べ、仲裁判断の作成、署名が行われる地。複数国が仲裁地となることもありうる。
Q,仲裁地以外の地で仲裁手続を行うことに当事者の合意が必要?
(ニ)仲裁地と仲裁手続準拠法との関係
(1)仲裁地法主義
仲裁地法=準拠法
(2)当事者自治の原則の適用を認める主義
当事者が選択した法=準拠法
当事者が仲裁手続きの準拠法を指定していない場合
→手続と密接に関連する地は仲裁地→仲裁地法が準拠法
当事者が仲裁地法とは異なる手続法を指定した場合
→(1)仲裁地法が準拠法
(2)当事者の指定した法が準拠法
cf.ダトコ事件
2、仲裁人を選定する際に考慮される事柄
中立性…<1>、<2>
資質……<3>
<1> (前提的)disclousure(開示)ー忌避
中立性→ 忌避:民訴法792条、37条1項
<問題点>disclousureと仲裁の利点との関係
(後発的)仲裁人の処罰 刑法197条〜
仲裁判断の取消 民訴法801条
<2>中立性の度合
適性とは…
第8回<仲裁手続(2)審理手続の概要、迅速制、非公開性>
はじめに 広範な裁量権<柔軟な手続の進行
1 手続の概要
融合された仲裁独自の手続慣行
(cf)大陸法系、英米法系
2 迅速性
1)ファーストトラック仲裁
2)ファーストトラック仲裁制度化の要請
3)プレアービトラルレフリー
3 非公開性
非公開性と現代において生じてきた様々な要請との抵触
1)第三者への請求権の存否に影響する時
2)公益上、公開の必要が高い時
3)多数当事者仲裁の可能性がある時
第9回<仲裁ではどのような法に従い判断がなされているのか>
1.実体準拠法の選択の方法
(1)当時者の合意 7条1項
(2)暗黙の合意
(3)−A 仲裁地の法
−B どれかの国の法に従って選択 a 仲裁地国の抵触法
b 仲裁人の母国の抵触法
(4)−C 仲裁人の裁量によって選択
<問題点>
事前の当時者の合意がないと実体準拠法の選択方法を巡って混乱が生じる。
2.1の問題解決になるのかーLex mercatoriaと
amiable composition
A 前近代におけるLex mercatoria
B New lex mercatoria
C Lex mercatoriaとamiable compositionの定義
3.公序
A 公序審査は必要か?
B 商事仲裁における強行法規適用の為に裁判制度を準用する
B−1 当事者自治の原則の制限
B−2 特別連結点からの発展
第10回<仲裁判断とその承認執行>
1
1)仲裁判断の有効性を争う権利の放棄について
2)現在の状況
3)民事訴訟法における責問権(141条)との関連
2
1)強制執行の要件
2)執行要件としての公序
3)米国における内国仲裁判断に対する公序審査
第11回<ケースの簡単な分析、役割分担、今後の日程の確認>
<ICC事例>
Xは米国ネヴァダ州の法人であり、ラスヴェガスでホテルとカジノの経営をしている。1996年8月7日、日本人Yは、Xと日本の旅行社Aが共同で企画した10日間のラスヴェガス・カジノツアーでラスヴェガスに旅行し、Xのホテルに宿泊した。
Xのカジノでは、Xのホテルの宿泊客は信用で賭博ができる仕組みになっていた。すなわち、Xのカジノで遊ぶにはチップを購入しなければならないが、宿泊客には契約書にサインさえすれば、その場で支払わなくともチップを渡し、ホテルのチェックアウト時に精算するようになっていたのであった。
Yもこれを利用して遊んだが、後半から負けが込み、それを取り返そうとさらに注ぎ込む形で、最終的に25万ドルの支払いをしなければならなくなった。あまりの金額に怯えたYは、チェックアウト予定日である8月16日の前日である15日深夜に密かにホテルを抜け出し、日本に帰った。
XはAを通じてYに25万ドルの支払いを求めたが、日本に帰ったYは応じようとしなかった。そこでXは、Yがサインした契約書の中の、ICC仲裁規則に従って仲裁により紛争を解決できる旨の条項を盾に、ICCに仲裁を申し立てた。
仲裁条項中には、仲裁地の記載がなかったが、XY間の話し合いで日本を仲裁地とすることに決まった。
< 契 約 書 >
私は、Xから以下の金額の金銭を借り受け、同時に同金銭を
チップに交換させました。私がXに対して有する債権を相殺した上
で、残額があれば、以下のチェックアウト日に支払をなすことを約
束します。
なお、この契約に関連して生じるすべての紛争は、ICCの
仲裁規則の下で、同規則に従って選定される3人の仲裁人により、
終局的に解決されるものとします。
金 額 : ー$250000ー
チェックアウト日: 1996年8月16日
●参考文献:
東京地判平成5年1月29日判時1444号41頁
神前禎・評釈・法学教室156号114頁(1993)
早川真一郎・評釈・ジュリスト1046号(平5年度重判解説)284頁(1994)
早川吉尚・評釈・ジュリスト1044号147頁(1994)
中野俊一郎・評釈・別冊ジュリスト渉外判例百選(第三版)34頁(1995)
佐野寛・評釈・私法判例リマークス[1994(下)]158頁
石黒一憲・国際私法(新法学ライブラリ)235頁以下(1994)
X:湯田淑美子 X側代理人:金子賢司
Y:菊池絵里子 Y側代理人:徳永謙太郎
仲裁人:松本尚之(長)・綿森真知子・谷内大輔
第12回<ICC規則版ケース第1回手続>
1.請求の趣旨
1、申立人は当ホテルにおけるカジノでの負債額$250000を、被申立人に対して請求する。
2、仲裁料金、仲裁人報償金、および仲裁続きに要する費用は全て被申立人の負担とする、との仲裁判断を求める。
2.請求の理由
被申立人は、カジノツア−に参加したということにより、被申立人の損得にかかわらず 申立人に負債額を支払う義務があることにも合意していると考えるのが当然である。
3.援用する仲裁合意
申立人及び被申立人は、被申立人がサインをした契約書に、カジノにおけるトラブル等が生じた場合はICC仲裁規則に従って仲裁により解決するということとすると規定されている。
なお、仲裁地は相互の合意により日本で行うことにする。仲裁人の数は申立人側から1人、被申立人側から1人、双方の仲裁人によってもう一人の仲裁人を選出するということが仲裁条項に含まれている。
4.関係する合意、仲裁合意、証拠となる文書等は追って適宜証拠を提出する。
以上のとおり仲裁を申し立てるものである。
添付書類
1、仲裁合意を含む契約書
2、委任状
当社は東京都豊島区西池袋3−34−1金子法律事務所弁護士金子 賢司を代理人と定め、下記の事項を委任します。
1.菊池 絵里子氏を被申立人として、国際商業会議所に対し、仲裁を申し立て、仲裁手続きを遂行する一切の件
2.和解、抛棄、承諾、申立ての変更、申立ての取下げをなす件
3.復代理人選任の件
社団法人 国際商業会議所 御中
仲裁人就任受諾書
頭書仲裁事件について、私は仲裁人に就任することを受諾いたします。
1996年10月7日
弁護士 綿森 真知子
仲裁判断
申立人 アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市ラスベガス
ハーモン通り3688
セントポールホテル株式会社
代表者 湯田 淑美子
申立人代理人 弁護士 金子 賢司
被申立人 埼玉県新座市北野1−2−26
菊池 絵里子
被申立人代理人 弁護士 徳永 謙太郎
頭書仲裁事件について、当仲裁裁判所は、次のとおり判断する。
〈主文〉
申立人の請求を全面的に認容する
〈判断の理由〉
(1)申立人及び被申立人は、賭博債権の発生原因たる契約関係については
明示の準拠法指定がないが、法例7条一項の下、ネバダ州賭博委員会
及び賭博管理局の規則の定めるところに準拠し、その規則に服する意思
であったものと推定するのが相当であって、申立人と被申立人との間の
契約についての準拠法は、ネバダ州法であるものとすることが当事者の
意思に最もよく適合する。
(2)仲裁契約の有効性に関しては、第一に賭博契約の契約書全てに仲裁条項
が付せられていたこと、第二に被申立人はチップの購入毎にその契約書
に署名をしたこと、以上を理由に有効とするのが妥当である。
(3)法例30条により、「外国法の適用を排除すべきか否かについては、
当該事案の内国関連性及び当該外国法の我が国の私法秩序に与える影響
などを総合考慮して決すべきところである」。そこで当該法制の適用
結果の異常性を考えると、確かに日本では民法90条との関連で賭博は
違法だが、一方で公営賭博も認められておりその限りで賭博も適法な
ものとして認められている。そしてネバダ州法では一般的に賭博を違法
として禁止したうえで州が免許を与えた者のみに州の管理の下で一定の
範囲の賭博を許可しているものであり、この点では日本の公営賭博と
それほど大きく違わない。
また、事案の内国関連性に関しては、申立人側が日本で賭博客を募集
し招待した点に注目すれば関連性が強いともいえるが、本事案における
賭博債権の回収は本来ならば現地で行うものであり、申立人が無断で
帰国したためにやむなく日本で回収せざるを得なかったのである。被申
立人が主張するようなジャンケット契約であったという事実もない事、
具体的な賭博契約は現地でなされ賭博行為も現地でなされたこと、以上
のことから内国関連性は希薄であるといわなければならない。
1996年 11月11日
国際商業会議所
仲裁人 松本尚之
仲裁人 綿森真知子
仲裁人 谷内大輔
<JCAA仲裁規則事案>
日本法人訴外A社は、パリ所在のある建物を購入するため、フランス法人で銀行業を営む原告X社を主幹事とする銀行団と1990年6月28日にローン・アグリーメント契約を締結した(11億7250万フラン、弁済期1990年12月15日、準拠法をフランス法とする条項あり)。Aの支配権の一部は、当該建物を購入・転売しようとした日本法人の被告Y社が有しており、Yは、当該ローン・アグリーメントに基づく貸金債務の一部(元本のうち9250万フラン及び貸金の遅延利息)についてギャランテイー契約を設定した(準拠法を日本法とする条項あり)。当該ギャランテイー契約には、当該契約に関するあらゆる紛争についてはJCAAの規則の下で東京で仲裁に付託される旨の仲裁条項が挿入されていた。
Aは当該建物を購入したものの転売先が見つからなかったため、1990年12月20日にXとの間で当該ローン・アグリーメントの弁済期を1991年6月にすることを合意した。また同日、YもAとXとの間で、YがXに9250万フランを支払えば当該ギャランテイーの債務負担部分が縮減される旨の合意を行い、1991年1月にYはXに同額を支払った(この段階でYのギャランテイーの対象は遅延利息のみになっている)。
1991年6月14日、AX間でローン・アグリーメントの弁済期を更に1991年12月16日まで延長することが合意され、同日、YはXに対して当該ローン・アグリーメントの下で支払われるべき金額がなくなるまで当該ギャランテイーが有効である旨を確認した。
1991年12月、ローン・アグリーメントの弁済期は更に1992年1月16日まで延長される。Yはギャランテイーが維持されることを確認した。
なお、Aは利息については、1990年9月、12月、1991年3月、6月、9月、12月に約定通りに支払いをなしている。
1992年1月22日、Aはパリ商事裁判所に清算の申立てをし、同裁判所は27日にAに対して司法救済手続の開始を決定した。
Yは1992年9月20日までの遅延利息は支払ったが、その後の支払いを拒否した。そこで、Xは1992年9月21日から支払済みまでの遅延利息の支払いを求めて、Yを相手にJCAAに仲裁を申し立てた。
社団法人 国際商事仲裁協会 御中
申立人 フランス共和国パリ市シャンゼリゼ通り77
セーヌ銀行株式会社
代表者 代表取締役 谷内 大輔
申立人代理人 東京都千代田区丸の内1ー1ー1
綿森法律事務所
弁護士 綿森真知子
被申立人 東京都豊島区西池袋3ー34ー1
株式会社 松本インターナショナル
代表者 代表取締役 松本尚之
1 請求の趣旨
(1)被申立人は、申立人に対し10億8000万フラン
(11億7250万フランからすでに支払った9250万フラン
を差し引いた金額)
および1992年9月21日から支払済に至るまで年6%の割合
による金員を支払え。
(2)仲裁料金、仲裁人報償金、及び仲裁手続に要する費用はすべて
被申立人の負担とする。
との仲裁判断を求める。
2 請求の理由
(1)申立人は、被申立人がフランスにおいて地上げをするために設立
した松本インターナショナル・フランス(日本法人訴外A社)と
当該ローン・アグリーメント契約を締結したが、資産は実質的に
は被申立人が有しているのであり、法人格は形骸化している。
よって松本インターナショナル・フランスを法人としては認めず
被申立人が当該ローン・アグリーメントの弁済義務を負う。
(2)仮に松本インターナショナル・フランスを法人と認めたとしても
松本インターナショナル・フランスは日本法人訴外会社である
から、日本の破産法第3条2項により破産は認められずよって
フランス民法55条は適用されない。よって日本に資産を有して
いるため、被申立人は貸金債務及び貸金の遅延利息を支払う義務
を負う。
(3)仮に松本インターナショナル・フランスの破産が日本において認
められたしても当該ギャランテイー契約によって被申立人が負担
する債務は、債務引受であって連帯保証ではない。よって、保証
債務のような附従性はなく松本インターナショナル・フランス
がフランスにおいて会社更正手続に付されたとしても、被申立人
の債務になんら影響を及ぼさない。
3 証明方法
追って適宜証拠を提出する。
以上のとおり仲裁を申立てるものである。
<添付書類>
委任状
1996年11月14日
申立人代理人 弁護士 綿森 真知子
東京第2号仲裁事件
答 弁 書
社団法人 国際商事仲裁協会 御中
フランス共和国パリ市シャンゼリゼ通り77
申立人 セーヌ銀行株式会社
代表者 代表取締役 谷内大輔
東京都豊島区西池袋3ー34ー1
被申立人 株式会社 松本インターナショナル
代表者 代表取締役 松本尚之
東京都千代田区神田駿河台1ー1
国立法律事務所
被申立人代理人 弁護士 湯田淑美子
1.答弁の趣旨
(1) 申立人の請求を棄却する。
(2) 仲裁料金、仲裁人報償金および、仲裁に要する費用は、全て申立人の負担 とする。
との仲裁判断を求める。
2.答弁の理由
(1) 松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランスは、下記
の理由により、独立別個の法人格を有する。
a 松本インターナショナルの松本インターナショナル・フランスに対する発
行株式の所有率は、5%のみである。
b 松本インターナショナルと、松本インターナショナル・フランスの取締役
及び、代表取締役はそれぞれ別個に存在する。
c 松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランスは両社とも
、
独自に収支決済をたてている。
d 松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランスの商業活動
は独立別個に行われている。
(2) 従って、松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランス
は、全く異なる法人格のため、松本インターナショナルは、契約時に締結
した遅延利息に対するギャランティーにのみ申立人に債務を負っており、
申立人の10億フランの支払請求は甚だ見当違いであり、全く持って、論
外であるといわざるを得ない。
(3) 又、遅延利息に対するギャランティーは、主たる債務の存在を前提とし
ており、故に主たる債務との間に附従性が存在する。従って当該ギャラン
ティーは、連帯保証であって全部弁済ではない。
(4) 日本国破産法3条2項の適用については以下の理由から制限的に解釈さ
れるべきであり、従って日本の財産に対しても倒産の効力は及ぶとする。
a 破産法3条2項の趣旨から考えるに、、当条文は破産開始国(フランス)
以外にある財産所在地国における債権者の保護を目的としている。しかし、当
該事件に関しては松本インターナショナル・フランスに対する債権者はフラン
スの原告団のみであり、日本国内には保護されるべき債権者は存在せず、内国
牽連性が乏しい。
b 国際倒産管轄については原則管轄と例外管轄の2つに区分され、破産法3
条2項が適用される場合は、破産手続き開始国に倒産者が主たる営業所を有し
ていない例外管轄の場合のみである。
従って、松本インターナショナル・フランスは、事実上の主たる営業所及び活
動拠点はフランスであるため、原則管轄となり、故に破産法3条2項の適用を
受けない。
(5)以上の事から、松本インターナショナル・フランスはフランス民法55条
の適用を受け、松本インターナショナルは松本インターナショナル・フランス
が破産宣告を受けるまでの1992年の1月16日から27日までの遅延利息
を支払う義務のみ負う。
しかし、この件については、既に支払い済みのため、松本インターナショナル
は申立人に対して何ら債務を負ってはいない。
3 証明方法
追って適宜証拠を提出する。
添付書類 委任状
仲裁人選定通知書
1996年11月17日
被申立人 松本尚之
被申立人代理人 湯田淑美子
当社は東京都千代田区神田駿河台1ー1 国立法律事務所弁護士 湯田淑美子を
代理人と定め、下記の事項を委任します。
記
1.セーヌ銀行株式会社 代表取締役 谷内 大輔氏を申立人として、
国際商事仲裁協会に対し、仲裁を申し立て、仲裁手続きを遂行する一切の件
2.和解、抛棄、承諾、申立ての変更、申立ての取下げをなす件
3.復代理人選任の件
以上
1996年11月17日
東京都豊島区西池袋3ー34ー1
株式会社 松本インターナショナル
代表取締役社長 松本尚之
社団法人 国際商事仲裁協会 御中
仲 裁 人 就 任 受 諾 書
頭書仲裁事件について、私は仲裁人に就任することを受諾いたします。
1996年11月18日
弁護士 徳永謙太郎
仲裁人選定通知書
頭書仲裁事件について、下記の者を仲裁人として選定いたしましたので、
仲裁人の受諾書を添えて、ご通知申し上げます。
記
氏名 金子 賢司
住所 埼玉県新座市北野1−2−26
金子法律事務所
職業 弁護士
添付書類
(1)仲裁人就任受諾書
1996年11月17日
被申立人代理人 弁護士 湯田淑美子
社団法人 国際商事仲裁協会 御中
仲 裁 人 就 任 受 諾 書
頭書仲裁事件について、私は仲裁人に就任することを受諾いたします。
1996年11月17日
弁護士 金子 賢司
申立変更許可申請書
頭書事件について、別添「請求の趣旨変更の申立書」のとおり申立を変更したい
ので、これを許可くださるよう申請いたします。
1997年11月18日
申立人代理人弁護士 綿森 真知子
請求の趣旨変更の申立
頭書仲裁事件について、申立人は、以下のとおり請求の趣旨変更
<変更後の請求の趣旨>
1 請求の趣旨
(1)申立人は被申立人に対し、1992年9月21日から支払済に
至るまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)仲裁料金、仲裁人報償金、及び仲裁手続に要する費用はすべて
との仲裁判断を求める。
2 請求の理由
(1)松本インターナショナル・フランスは日本法人訴外会社である
から、日本の破産法第3条2項により破産は認められずよって
フランス民法55条は適用されない。よって松本インター
ナショナルの債務は未だ存在し、被申立人は貸金の遅延利息を
支払う義務を負う。
(2)仮に松本インターナショナル・フランスの破産が日本において認
められたしても当該ギャランテイー契約によって被申立人が負担
する債務は、債務引受であって連帯保証ではない。よって、保証
債務のような附従性はなく松本インターナショナル・フランス
がフランスにおいて会社更正手続に付されたとしても、被申立人
の債務になんら影響を及ぼさない。
3 証明方法
追って適宜証拠を提出する。
以上のとおり仲裁を申立てるものである
1997年11月18日
申立人代理人弁護士 綿森 真知子
社団法人 国際商事仲裁協会 御中
申 立 変 更 の 同 意
頭書仲裁事件について、申立人が仲裁申立を変更する事に同意します。
1996年11月23日
被申立人代理人 弁護士 湯田淑美子
申立人代理人 綿森 真知子 殿
被申立人代理人 湯田 淑美子 殿
社団法人 国際商事仲裁協会
担当書記 金子 賢司
申立変更許可の通知
頭書仲裁事件について、1996年11月19日付「申立変更許可申請書」に
基ずく申立人の申立変更が1996年11月22日に仲裁裁判所により許可されま
したので、通知いたします。
以 上
仲 裁 申 立 変 更 に 対 す る 答 弁 書
社団法人 国際商事仲裁協会 御中
フランス共和国パリ市シャンゼリゼ通り77
申立人 セーヌ銀行株式会社
代表者 代表取締役 谷内大輔
東京都豊島区西池袋3ー34ー1
被申立人 株式会社 松本インターナショナル
代表者 代表取締役 松本尚之
東京都千代田区神田駿河台1ー1
国立法律事務所
被申立人代理人 弁護士 湯田淑美子
1.答弁の趣旨
(1) 申立人の請求を棄却する。
(2) 仲裁料金、仲裁人報償金および、仲裁に要する費用は、全て申立人の負担
とする。
との仲裁判断を求める。
2.答弁の理由
(1) 松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランスは、下記
の理由により、独立別個の法人格を有する。
a 松本インターナショナルの松本インターナショナル・フランスに対する発
行株式の所有率は、5%のみである。
b 松本インターナショナルと、松本インターナショナル・フランスの取締役
及び、代表取締役はそれぞれ別個に存在する。
c 松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランスは両社とも
独自に収支決済をたてている。
d 松本インターナショナルと松本インターナショナル・フランスの商業活動
は独立別個に行われている。
(2) 遅延利息に対するギャランティーは、主たる債務の存在を前提として
おり、故に主たる債務との間に附従性が存在する。従って当該ギャラン
ティーは、連帯保証であって全部弁済ではない。
(3) 日本国破産法3条2項の適用については以下の理由から制限的に解釈さ
れるべきであり、従って日本の財産に対しても倒産の効力は及ぶとする。
a 破産法3条2項の趣旨から考えるに、当条文は破産開始国(フランス)
以外にある財産所在地国における債権者の保護を目的としている。しかし、当
該事件に関しては松本インターナショナル・フランスに対する債権者はフラン
スの原告団のみであり、日本国内には保護されるべき債権者は存在せず、内国
牽連性が乏しい。
b 国際倒産管轄については原則管轄と例外管轄の2つに区分され、破産法3
条2項が適用される場合は、破産手続き開始国に倒産者が主たる営業所を有し
ていない例外管轄の場合のみである。
従って、松本インターナショナル・フランスは、事実上の主たる営業所及び活
動拠点はフランスであるため、原則管轄となり、故に破産法3条2項の適用を
受けない。
(4)以上の事から、松本インターナショナル・フランスはフランス民法55条
の適用を受け、松本インターナショナルは松本インターナショナル・フランス
が破産宣告を受けるまでの1992年の1月16日から27日までの遅延利息
を支払う義務のみ負う。
しかし、この件については、既に支払い済みのため、松本インターナショナル
は申立人に対して何ら債務を負ってはいない。
3 証明方法
追って適宜証拠を提出する。
添付書類 仲裁申立変更同意書
1996年11月23日
被申立人 松本尚之
被申立人代理人 湯田淑美子
フランス共和国パリ市シャンゼリゼ通り77
申立人 セーヌ銀行株式会社
代表者 代表取締役 谷内 大輔
東京都千代田区丸の内1ー1ー1
申立人代理人 綿森法律事務所
弁護士 綿森 真知子
東京都豊島区西池袋3ー34ー1
被申立人 株式会社松本インターナショナル
代表者 代表取締役 松本 尚之
東京都千代田区神田駿河台1ー1
被申立人代理人 国立法律事務所
弁護士 湯田 淑美子
頭書仲裁事件について、当仲裁裁判所は次のように判断する。
< 主文 >
申立人の請求を全面的に否認する。
< 判断の理由 >
(1)保証か併存的債務引受かについて
本件債務が併存的債務引受か保証かを判断するにあたって、提出された契約書には保証
する契約をここに締結すると明記されている以上、両当事者間で本件債務は保証する合意
があったと解することができる。仮に契約書の「保証」という文言を一義的に解釈せず、
「併存的債務引受」だと解釈するとしても、そもそも併存的債務引受は、債権者、債務者
、引受人間の三者契約で成立するものである。しかし本件ではそのような三者間の契約書
が存在しないので、併存的債務引受が成立すると解釈することはできない。よって本件債
務は保証と解釈するのが相当である。
(2)破産法3条2項の解釈について
破産手続の国際的効力については、属地主義と普及主義の対立があったが、日本法は破
産法3条により厳格な属地主義を採用し解釈上も破産法3条1項については属地主義を採
用している。しかし破産法3条2項については3条1項の結果として属地主義を制限する
とするのが判例法上、通説となっている。日本の破産宣告が属地的効力しかないのは日本
に破産者の住所や主たる営業所のない場合(例外管轄)に限り、これがある場合(原則管
轄)には日本破産の効力は普及的である。本件の松本インターナショナル・フランスは日
本法人であっても事実上の主たる営業所および活動拠点はフランスであるためこの場合は
原則管轄になり、破産の効力は普及的であるから属地主義は制限的に解釈されるべきであ
る。
(3)契約の期限について
フランス法55条によれば、債務者に対する司法救済手続が開始された場合には期間が
一年以上でない貸付金については、右時点以降、遅延損害金も含めた利息は発生しない旨
を定めている。本件ローンアグリーメントは、当初期間が約六ヶ月でありそれ以降も何度
か弁済期の修正があったが、被申立人はその都度、遅延利息を支払っておりまた契約書も
作られているということが双方の主張によって確認されているので、一年以上の貸付金は
ないとみなす事ができる。下がって司法救済手続のなされた1992年1月27日以降、
松本インターナショナル・フランス社において、本件ローンアグリーメントの遅延利息は
発生しない。
1996年12月6日
社団法人 国際商事仲裁協会
東京00ー02号仲裁裁判所
仲裁人 菊池 絵里子
仲裁人 金子 賢司
仲裁人 徳永 謙太郎